「2次元CADからBIMへ」図面の手戻り削減と、下請け体質からの脱却を見据えた建設DX

【平川市】株式会社長谷川鉃工


青森県平川市に本社を構える株式会社長谷川鉃工は、大型建設工事の柱・梁や胴縁、ファスナー金物等の製造・加工を手がけ、22名の体制で年間平均2,400トンの鉄を取り扱っています。清水建設等のスーパーゼネコンと直接取引する同社ですが、県の補助金を活用してBIMを導入し、さらに図面作成を他社から請け負う新部門「BIM SYNDICATE」の立ち上げにも挑戦しています。取り組みの背景とこれまでの道のりを、BIM導入を担当した副社長の田辺一久さんに伺いました。

事業内容
金属製品製造業(建築鉄骨・胴縁・ファスナー金物等の製造・加工)
社員数
22名

DXに踏み出した背景

Q: DXに取り組む前、どのような課題を感じていましたか。

課題は大きく3つありました。1つ目は利益率の圧迫です。人件費、原材料費、運搬費が上昇しているうえ、深刻な労働力不足を補うために専門業務を外注する費用も増えており、利益率を大きく圧迫していました。2つ目は現場の非効率です。当時使用していた2次元CADによる図面作成では設計変更などに柔軟に対応できず、他の図面との不整合から、現場施工でのミスや手戻り(現場でのつくり直し)が発生していました。3つ目が下請け体質からの脱却です。

なかでも一番大きかったのは、大手ゼネコンの工事受注に依存している体質でした。景況や大手の業績に左右されやすく、それ以外に事業の柱になるものが必要だと昔から感じていました。そこから脱却するために、図面の作成というより上流の業務ができるようになりたいと考えたのです。図面作成は当社の現在の業務とも相性が良く、自ら能動的に利益を獲得できる、強固で独自の事業体制につながると考えました。


取材に応じる副社長の田辺さん

Q: 2次元CADでの図面作成では、現場でどのようなご苦労がありましたか。

BIM導入前は、図面のズレによる手戻りが月5件ほど発生していました。工事が進んだ後になって図面の修正依頼が入ることがあり、現物も図面も2回直したこともあります。平面図だけでなく立面図の手直しも必要になりますし、手戻りがあることで他の現場の業務が遅れてしまうこともありました。

印象に残っているのは、工程の途中で手戻りが発覚し、部品を追加注文したケースです。2次元の図面は直っているのに3次元側は直っていない、といった図面同士の不整合も起きていました。当時は図面の確認・修正に1件あたり5時間ほどかかっており、見積書には載らない人件費が積み重なっていました。

BIMとの出会いと導入の決断

Q: 建物を3次元モデルで丸ごとつくる「BIM」の導入を検討し始めた経緯を教えてください。

取引先の清水建設がBIMを推奨しており、そのグループ会社が開発している鉄骨専用の3次元CADシステム「KAP」というシステムの導入を検討したのがきっかけです。このシステムを使うと立面図と平面図を同時に作ることができます。また、建設データをクラウドで管理することで複数名での同時作業が可能になり、3次元モデル上で他の部材とのぶつかり(干渉)や手戻りが即時に分かるようになります。

加えて、2029年ごろを目処に、元請けに対してBIMで図面を提出することが必要になりそうだという情報もありました。それが実現すれば、設備業者との連携なども楽になると聞いています。


従来から使用している2次元CADの作業画面


「KAP」による鉄骨の3次元モデル画面

Q: 導入を決断した一番の決め手は何でしたか。

将来的に3次元データで確認依頼ができるようになる、という点が決め手でした。いずれこうしたシステムを使わざるをえない状況になるという見通しを社内でしっかりと話し合い、導入を決め、2025年8月に検収しました。

Q: 令和7年度青森県産業DXモデル創出支援事業費補助金を活用しようと考えたきっかけは何でしたか。

青森県中小企業団体中央会(以下、中央会)から補助金の紹介を受け、使うことを比較的すぐに決めることができました。申請書類を作るのはとても大変でしたが、やって良かったと感じています。他の補助金に比べると、負担は比較的少ない方だったと思います。

導入プロセスと「習得」の苦労

Q: BIMソフトを実際に使ってみて、2次元CADと比べて戸惑った点はありますか。

これまで使ってきたシステムと比べると、鉄骨に特化した機能が非常に豊富で、習熟には相当な時間がかかります。基本操作の理解から「実務で使いこなす」レベルに到達するには、相当な実務経験が必要だと痛感しています。ただ、使いこなすことができればとても便利だと実感しています。

現在は1名がメイン担当となり、他の数名も日常的に操作に触れている状況です。ライセンスがUSB認証で1台分しかないため、クラウド対応のシステムでありながら複数人での同時作業ができないことが今の課題です。

Q: 研修を受けた5名は、どのようなメンバーですか。

設計2名、営業3名の計5名で、いずれも設計と営業を兼ねている30〜40代のメンバーです。社内で業務をよく理解している、ベテランと言われる社員を選びました。取材時点で、基本操作の8割ほどを習得しています。

Q: 「基本操作8割」から「実務で使いこなす」まで、どのくらいの壁がありそうですか。

かなりの壁がまだありそうです。少しずつ進めていくしかありません。同業で同じシステムを導入している仲間に聞いたり、サービス担当のSEに確認したりと、分かっている人たちに都度確認しながら、少しずつ知識をつけていっています。

全社員へのiPad配布とペーパーレス化

Q: 全社員にiPadを配布されたのは、どのような経緯からですか。

2025年1月末に、社長の知り合いの会社がペーパーレスで仕事をしていると聞いて社長と見学に行ったところ、本当にペーパーレスで業務が回っていることに衝撃を受けました。そこから準備を始めました。事務所にはWi-Fiがありましたが工場にはなかったため、電柱の新規設置からのスタートでした。

2025年4月中に全社員へiPadを配布し、そのタイミングでキックオフミーティングを実施。6月に運用確認を行い、8月のお盆前の勉強会では全員がiPadを使って作業できるようになりました。事務所は完全ペーパーレスが難しいため紙と併用するハイブリッドで進めていますが、紙の量は確実に減っています。

Q: 長く現場に立たれてきたベテランの職人さんは、最初どのような反応でしたか。

最初は「え〜」という反応でしたね。ただ、図面をズームして見られたりするので、使っているうちに便利さに気付いてもらうことができました。


工場内でiPadを使って図面を確認する社員

Q: iPadとクラウドの組み合わせで、情報のやり取りはどう変わりましたか。

1つの案件で100枚に及ぶこともある各種図面や加工図の紙出力がなくなり、データで管理できるようになりました。ノートアプリ「GoodNotes」を使ってリアルタイムで変更点を把握できるようになり、「LINE WORKS」で変更を周知して、それを見た社員がiPadから変更点を確認する、という流れができています。iPadに移行しても、専用ペンで図面に直接書き込めるようにしたのも良かった点です。


加工図に専用ペンで書き込みをしながら確認できる

新部門「BIM SYNDICATE」への挑戦

Q: 社内の効率化にとどまらず、図面作成を他社から請け負う新部門「BIM SYNDICATE」を立ち上げられました。現在の状況を教えてください。

図面作成・工程管理のプロ集団として、同業他社や地域のゼネコンから図面作成や工程管理を受託し、下請け体質からの脱却を図るのがこの新部門の狙いです。まだ口頭ベースではありますが、協力業者2社に加え、清水建設・吉田産業・中央会で協力体制ができています。タイミングが合えば始動できそうな感覚はあります。

Q: 同業他社や地域のゼネコンからの反応はいかがですか。

受託の実績は今のところありませんが、こうした依頼がきそうな雰囲気は感じています。目標としている「年間20件以上の受注」に向けて、当社の新たな収益の柱へと成長させていきたいと考えています。

導入後の変化と効果

Q: BIM導入から取材時点までの手応えはいかがですか。

3次元モデル上で修正を加えることができるので、効果は確実にあると感じています。2次元CADだけで図面を作成していた頃は2〜3回手直ししていたものが、1回で済むようになってきました。図面を製作する工程そのものが減った案件もあり、図面に手間をかける時間がとても減りました。また、効果は大型物件のほうが出やすいと感じています。


本社工場での鉄骨加工の様子

Q: 数字で見えてきた変化があれば教えてください。

BIM導入前に月5件程度あった手戻りは、取材時点では月1〜2件まで減りました。導入前は1件あたり5時間かかっていた図面の確認・修正時間は、1件あたり1時間程度になっています。ゼネコンとの打ち合わせも、以前は月3回訪問していたものが、月1回程度で済むようになりました。

Q: 数字に表れないところで、社員の意識や働き方に変化はありましたか。

変化はあります。社員が新旧のシステムの違いを理解して、どこが楽になったかも分かるようになってきました。営業担当は、積算数量などを入力すると重量まで自動で算出されるようになったので、業務が楽になっています。

今後の展望と、これからDXに取り組む企業へのメッセージ

Q: 「3年以内に全社員がBIMを使いこなせるように」という目標に向けて、今後どのようなことに取り組んでいかれますか。

まずは研修を受けた5名が実務での経験を積み重ね、3年以内には全社員がBIMソフトを完全に使いこなせる体制の構築を目指します。清水建設との取引では、「KAP」を使えることがすでに大きなアドバンテージになっています。清水建設としても、「KAP」を使える企業のほうが仕事を頼みやすいはずです。商社に関しても同様の仕組みを構築できるのではないかと考えています。

Q: これからDXに挑戦しようとしている県内の企業へ、アドバイスをお願いします。

社長の気持ち一つだと思います。当社も最初は戸惑っていましたが、社長が「やる」と決めて取り組みを始めました。やはり社長が本気になることが大事です。そこから社員も巻き込んでいきました。ペーパーレスを進めている企業への視察にも社員を連れて行き、「会社全体で取り組むんだ」という意思表示をしました。費用がかかることもありますが、それでも実現したい環境を作るために取り組みを進めた結果、それ以上の効果があったと考えています。

Q: 青森県産業DXモデル創出支援事業費補助金の活用を迷っている企業へ、背中を押すひと言をお願いします。

当社は以前から中央会と一緒に取り組んできたので、そこと協力しながら令和7年度青森県産業DXモデル創出支援事業費補助金の申請を進めました。そうした支援団体の協力をしっかり受けて取り組むことで、ゼロからイチを立ち上げる手間を楽にできます。補助金と同じ額の利益を自力で出すのは難しいので、うまく活用するのが良いのではないでしょうか。結果として、社員の働き方が楽になれば良いなと思います。


本社事務所の様子

株式会社長谷川鉃工

所在地
〒036-0231 青森県平川市新山柳田95-1
TEL
0172-57-5353
URL
https://hasetetsu.jp/
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