現場の負担をなくす「引き算のDX」 紙伝票とスタンプラリーからの脱却
【青森市】大青工業株式会社
青森市を拠点に1948年創業、2026年現在78年目を迎えた大青工業株式会社は、冷凍冷蔵・凍結設備や水温・空調設備の設計・施工・メンテナンスを主事業としています。AWSのイベントへの登壇や業界最優秀賞受賞など、対外的には最先端のIT・AI活用で知られる同社ですが、社内業務は約30年来の手書き伝票が続き、相当な時間を費やしていました。社内横断チームと外部の開発パートナーが一体となってDX推進に取り組んだ経緯と成果を、プロジェクトをリードした米塚氏に伺いました。
- 事業内容
- 冷凍冷蔵・凍結設備、水温・空調設備の設計・施工・メンテナンス
- 社員数
- 50名
「社内での記録」が完全な紙ベースだった理由
Q: まず、会社の事業内容と、これまでのIT・AI活用の実績について教えてください。
青森市を拠点に1948年創業、2026年現在78年目を迎えた大青工業株式会社は、冷凍冷蔵・凍結設備や水温・空調設備の設計・施工・メンテナンスを主事業としています。AWSのイベントへの登壇や業界最優秀賞受賞など、対外的には最先端のIT・AI活用で知られる同社ですが、社内業務は約30年来の手書き伝票が続き、相当な時間を費やしていました。社内横断チームと外部の開発パートナーが一体となってDX推進に取り組んだ経緯と成果を、プロジェクトをリードした米塚氏に伺いました。
Q: そのような先進的な実績がある一方で、社内業務は長年「完全な紙ベース」だったとのことですね。当時の状況を教えてください。
社外向けの開発では積極的にデジタルを活用してきましたが、社内のメンテナンス部門やバックオフィスは、手書きの5枚綴りカーボンコピー伝票を各部署で回覧・押印していく「スタンプラリー」が約30年間変わらず続いていました。冷凍空調機器の管理者に定期点検と記録保管を義務付けるフロン排出抑制法への対応書類も、すべて手書きでした。社内業務は多くの部署に関わるため、経営陣を含む全社体制が整うまでDX化には着手できずにいました。今回、社長主導でプロジェクトチームを立ち上げたことで、ようやくその環境が整いました。
1件25〜30分。スタンプラリーが奪っていたもの。
Q: 紙ベースの業務で、特に課題となっていた部分を具体的に教えてください。
最大のボトルネックはメンテナンス報告書1件あたりの処理時間でした。作業員は現場で書類を記入し、帰社後に手書きで転記、さらに総務担当が週1回まとめて別システムへ入力する多重作業が発生し、1件あたり25〜30分を要していました。年間の件数規模を考えると、相当な時間が手作業に費やされていた計算になります。作業内容から法定管理事項・請求金額まで1枚に詰め込んだ伝票設計のせいで、どこからデジタル化すればよいかもわからない状態でした。
Q: 既製品のパッケージソフトは検討しましたか?自社開発を選んだ理由も教えてください。
既製品も検討しましたが、自社の修理履歴・顧客情報と連携するためのAPI利用料が高く、規模感が合いませんでした。「軽自動車でいいのに戦艦を買わされるような」感覚でしたね。生成AIの進化が速い今、特定パッケージに縛られるリスクも考慮し、拡張性を持たせた自社主導での開発を選びました。
「引き算」から始まったシステム開発。
Q: 自社開発を進める上で、チームとして最も苦労したことを教えてください。
プロジェクト全体で最も時間がかかったのは、システム開発よりも要件定義の段階でした。各部署のメンバーを集めたプロジェクトチームで伝票の項目を一つひとつ精査すると、年に1〜2回しか使わない形骸化した項目が大量に出てきました。「本当に必要か、昔からそうしてきただけか」をチーム全員で判断していく作業が、今回のDXで最も核となる部分でした。部署間で議論を重ねながら断捨離した結果、ようやくデジタル化できる形に整理できました。
Q: 生成AI・音声入力・RAGを組み合わせた仕組みについて、詳しく教えてください。
チームでの検討を踏まえ、システム設計でまず優先したのは、現場での入力負担をできるだけ小さくすることです。高齢の作業員も多いため、音声入力でタイピングの手間をなくし、RAG(過去データを参照してAIの回答を補完する技術)を組み込むことで、方言や略称が混じる音声入力でも過去の故障履歴をもとに内容を自動補完できます。AIエンジンにはAWS Bedrock(AWSの生成AIサービス基盤)を外部開発パートナーと連携して採用しました。精度は7〜8割で十分という考え方で、完璧よりも現場の負担軽減を優先した設計にしています。
Q: 高齢の社員も多い現場への展開で、どのような工夫をしましたか?
チームで議論した結果、いきなり全社一斉導入するのはリスクがあると判断し、まず若手・デジタルが得意なメンバーに限定してスタート。「若手→中堅→ベテラン」の順で、段階的に全社へ展開しています。
データが綺麗に蓄積する好循環。
Q: 導入後、具体的にどのような効果が出ていますか?
正式運用後に一度仕様の手戻りが生じ、2026年6月に再スタートを切ったばかりです。現時点では、顧客や機器の情報を入力時に自動で呼び出すルックアップ機能によって、手書き時代に多かった記録のバラつきが起きにくい仕組みになってきています。常態化していた顧客名称の表記ゆれも、データクレンジングによって現在進行形で整理が進んでいます。今から綺麗なデータを蓄積し続けることが、将来の分析・活用に向けた大きな資産になると感じています。
Q: 今後の計画や展望を教えてください。
今回は3カ年計画の第1フェーズで、メンテナンス業務の運用定着が目標です。第2フェーズで請求業務のデジタル化、第3フェーズで営業部門への展開とダッシュボードによる経営情報の可視化を行います。これらが将来の経営全体のデジタル化につながると考えています。
DXに取り組む企業へのアドバイス。ツールの前に「引き算」を。
Q: これからDXに取り組む企業に向けて、メッセージをお願いします。
まず伝えたいのは「ツールを入れる前に、業務の現状を泥臭く分析してほしい」ということです。「これは本当に必要か」と問い直す作業なしにシステムを入れても、無駄をデジタルに移しただけになります。次に巻き込みの重要性です。システム開発を特定部署に任せきりにすると、現場で使われないシステムができます。最初から他部署のメンバーを横断チームに巻き込むことが形骸化を防ぐ秘訣です。地道な現状分析とチーム一丸となって巻き込んでいく姿勢、この2つがDXを成功に導く鍵だと実感しています。
大青工業株式会社
- 所在地
- 〒030-0131 青森県青森市問屋町1-9-30
- TEL
- 017-738-2131
- URL
- https://www.taiseiaomori.co.jp/



