りんご農園の現場から始める、小さなDX 〜りんご農家が“まずやってみる”で変えた「売上」と「労働時間」の記録〜
【五所川原市】石岡 利江さん 園主 石岡 広昭さん(りんご農家)
今回はりんご農家の石岡利江さんから話を伺いました。
石岡さんがDXに取り組むきっかけとなったのは、参加したセミナーで「農業にデジタル」という言葉を目にしたことでした。
紙に書くのが当たり前だった日々から、スマホやiPad、そしてGoogleスプレッドシートで記録する日々へ。畑の忙しさの中でも「まずやってみる」を合言葉に、売上と労働の“見える化”を小さく着実に前に進めています。
- 事業内容
- 主にりんごの生産・販売
- 社員数
- 6名(アルバイト含む)
背景・窓口相談のきっかけ
Q:まず、1日の大まかな流れを教えてください。
朝6時30分に落ちたりんごを確認して準備し、7時に作業を開始します。
お手伝いの方たちは16〜17時くらいまで、自分たちは今の時期(取材は9月下旬に実施)は概ね18時まで作業しています。また、選果作業が入る日は20〜22時まで延長することもあります。
出荷がある場合は集荷場へ17〜18時に搬入、板柳の市場へ自分たちで運ぶこともあります。
Q:デジタルに取り組んだきっかけは何でしたか。
DX総合窓口主催のセミナー内容で「農業にデジタル」を目にして、紙に書くよりスマホやパソコンで打てば速く、そのまま情報が残るのではないかと考えたのが始まりでした。Googleスプレッドシートを使うことにして、最初はパソコンが本当に苦手で難しく感じましたが、教えてもらいながら触っているうちに便利さが分かってきました。Googleスプレッドシートはパソコンだけでなくスマホでもタブレットでも使用でき、現場での作業の直後に入力できることもわかりました。
Googleスプレッドシートは、複数の端末から同一の表にアクセスして同時編集でき、入力した内容が自動で保存・同期されとても便利です。将来、子どもが家業を継ぐときに手書きメモの解読で困らないようにしたい、また作業内容や作業時間などが分かる形で残したいという思いもありました。
解決したかった課題と施策
Q:導入前に“見える化”したかったのはどこですか。
見える化したかったのは、売上の状況と労働の状況です。
まず売上については、畑や品種、出荷先、等級、手数料、入金日までを列で整理し、手書きでは追いづらかった入金の遅れを早めに把握できるようにしたいと考えました。次に労働については、作業別の人時を記録し、1箱あたりの工数の目安をつかめるようにすることが目的でした。人時とは、人数と作業時間を掛け合わせた作業量の単位で、たとえば3人が2時間作業すれば6人時になります。
パソコンを持ち歩かなくてもスマホで入力できることが、これらの入力作業を続けられる理由になっています。また、運用に迷ったときは「複製して試す、違えば戻す」という手順で、慎重に調整を重ねています。元のシートをコピーしてテスト用に使い、うまくいけば反映し、問題があればコピーを破棄して元に戻すという“保険付きの改善”に取り組んでいます。
Q:運用の中で、うまくいった点・つまずいた点は何でしたか。
うまくいったのはプルダウンの活用です。品種や出荷先、等級はプルダウンにして入力の負担を軽くしています。あらかじめ用意した選択肢の中からタップして選ぶだけなので、手入力のミスを減らし記録の記載を揃えることができています。
つまずいたのは専門用語でした。横文字が多く最初は意味が分からないことがよくありましたが、DX総合窓口の支援の中で「ここを押して、次はここ」と教えてもらい、手を動かしながら用語や操作方法を覚えるやり方で前に進めました。
教えていただいた操作手順はノートに整理して、必要なときに見返せるようにしています。
おかげで、操作方法に迷うことが減りました。
Q:実感している変化は何でしょう。
紙だけの頃に比べると、作業時間が減り転記のやり直しも少なくなりました。
紙だけでは、書き間違いや、判読しづらい文字が原因で、あとから修正する手間が発生したり、内容がわからなくなってしまうことがありました。いまはGoogleスプレッドシートにしたことで、プルダウンで表記を統一し、入力はりんご農園にいながらすぐにできます。今の方法に切り替えたことで、紙のメモ内容を集計・整理する際の手間や、誤字脱字のやり直しを減らすことにつながっています。
現場で作業を終えた直後にスマホで入力し、あとから検索できることの効果も大きいと感じています。
今は紙の習慣も生かしながら、少しずつデジタル側に寄せているところです。紙のメモは現場での即時性に優れ、デジタルは集計や共有に強いため、両者を段階的に切り替えつつ併用しています。
売上管理については、まだ効果を実感できているわけではありませんが、Googleスプレッドシートに売上などをまとめていることで、これから確定申告をするときに楽になったことを実感できるのではないかと思っています。
今後の展望と生成AIの活用に関して
Q:今後、広げたいことや試したいことはありますか。
りんごジュースと生果の“セット販売”に取り組みたいと考えています。
最初から大規模にやるのではなく、まずは知人や既存のお客さまからのご依頼分を、梱包から発送まで滞りなく進めるために、Googleスプレッドシートを活用した顧客管理のデジタル化から始めたいと思っています。
Q:生成AIも活用されていると伺いましたが、どのように活用されていますか。
今後取り組みたいと考えているりんごジュースと生果の“セット販売”のために、見た人の記憶に残りやすいような工夫をしながらInstagramに投稿をしています。そのためにChatGPTにいろいろと相談しながらInstagramのキャプションを作成していますし、別のAIにも同じ質問を投げて、しっくりきた方を採用することもあります。検索も好きで、最近はGoogleのAIモードの要約を参考にする場面が増えました。
これからDX実施をする方へ
Q:これからDXに取り組む方へメッセージをお願いします。
難しいと構えるより、まずやってみることが大切です。私であれば、日付と作業名と人時だけでも、その日のうちにスマホで入力することを心がけています。また、週の終わりに少し見直すことを習慣にすることも大切です。入力は最初から完璧でなくても構いません。日付の付け忘れや誤字などは後で直せるため、“その日のうちに残す”ことを優先して欲しいと思います。
また、青森県は人見知りの方も多いかなと思いますが、1人で抱え込まず、誰かと一緒に進めるということを大事にしてほしいです。



