“やるしかなかった”から始めた社内DX!DXに挑んだ5年間の軌跡 やまと印刷株式会社
やまと印刷株式会社
「印刷会社がなぜDXを?」—そんな問いから始まった挑戦は、従来の業務を根本から見直す大胆な改革へとつながりました。75年の歴史を持つ企業が、紙と口頭の文化を手放し、生成AIやクラウドを活用して業務の効率化と営業の進化を実現。変化の中心にあったのは、「まず、やめることを決める」という覚悟でした。今回はやまと印刷株式会社の秋元社長にお話を伺います。
- 事業内容
- 総合印刷業
- 社員数
- 44名(2023年6月現在)
「印刷会社がなぜDXを?」という出発点
Q: 社内DX実施に取り組むことになったきっかけや背景を教えてください。
創業75年の印刷会社として、ペーパーレス化やデジタル化の波を前に、従来の印刷ビジネスだけでは将来の成長が難しいと強く感じました。特に2020年のコロナ禍以降、企業のデジタル化が急速に進む中で、国のDX推進の方針も受け、「単にITツールを導入することがDXではなく、業務の仕組みそのものを変えることこそが本質だ」と考えるようになりました。そうした想いから社内にDX事業部を立ち上げ、まずは自社の業務フローの見直しから着手しました。
不要な業務をやめる「引き算」の発想を大切にし、例えば、FAXの原則廃止や、旧サーバーを廃止して物理的に使用不可にするなど、強制的に新しい仕組みに切り替えざるを得ない環境にしました。Google Workspaceを中心に業務プラットフォームを構築し、業務を一括管理できる体制を整えました。また、生成AIの活用も進め、「業務のどこでも生成AIを使う」という意識を全社に浸透させました。
走り始めた社内DX実施と最初の5年間 課題と学び
Q: DX事業部発足後、最初の5年間で直面した課題について教えてください。
DX事業部を立ち上げた当初、最も大きな課題は「紙と口頭が当たり前だった社内文化を変えること」でした。これまで電話やメール、FAXなど手作業で受け付けていた問い合わせ対応を見直し、Googleフォームで問い合わせ内容を一括収集し、自動的にスプレッドシートに転送する仕組みを導入しました。さらに、QRコード付きチラシからの入力情報を顧客データと連携させることで、これまで見えなかった「現場のニーズ」を可視化できるようになりました。
受注管理からスケジュール調整、社内のトラブル報告に至るまでの情報をGoogleサイトに集約することで、「探す・転記する」といった無駄な作業が大きく減り、デジタル化のメリットを実感できました。一方で、「やってみないとわからない」「細かいところまで手が届かない」といった社員の戸惑いもありました。そのため、私自身がサービスを積極的に使い、社員に教えることと旧システムの遮断といった物理的な移行手段を併用しながら、試行錯誤を繰り返しました。こうした経験から、「単にツールを導入するだけではなく、組織の習慣そのものを変えることがDXの実現には不可欠である」と学びました。
年間90時間削減と営業スタイルの変化
Q: 業務効率化や営業活動にはどのような効果がありましたか。
DXを推進した結果、ファイル探しや紙による集計作業といった、これまで多くの時間を要していた業務が大幅に減少し、全社員で年間約90時間の業務時間を削減できました。浮いた時間を活用して新たなチャレンジが生まれ、営業担当はQRコード付きチラシのアクセス解析を活かした提案書づくりに取り組めるようになりました。「5,000枚配布して120人がサイトにアクセスし、30人が実際に来場した」といった具体的な数字を用いることで、顧客との会話も「刷り部数を減らすには?」という価格交渉型から「どうすれば効果を伸ばせるか」といった提案型の話にシフトしました。
この営業スタイルの変化は、従来の受注中心型ビジネスから、可視化された顧客ニーズを起点に新規開拓を目指す新たな営業戦略への転換を加速させています。また、生成AIによる提案書作成やスケジュール管理の導入により、個人のスキルに依存していた業務の標準化も進みつつあります。
DXに挑む企業へのアドバイス―まず“やめること”を決める
Q: これからDXに取り組もうと検討している企業に向けて、メッセージをお願いします。
DXの取り組みでは新しいツールを次々に導入する「足し算」ではなく、「何をやめるか」を明確にする「引き算」の意識が大事です。当社ではFAX回線の廃止を打ち出し、取引先にも段階的にメール対応への移行をお願いすることで、クラウドや電子データを軸とした運用への強制的な切り替えを行いました。逃げ道を残すと人はそこへ戻ってしまうため、経営者自らが先頭に立ち、「旧来の仕組みはもう使えない」とはっきり宣言することが非常に重要です。
また、DXへの取り組みは「やってみないとわからない」未知の領域です。最初から完璧を目指すのではなく、試行錯誤しながら改善していく姿勢が求められます。当社でもいくつかの有料のデジタルツールを導入しましたが、必ずしも全てが期待どおりには機能せず、柔軟に自社でカスタマイズしていく必要がありました。
そして何より、DXに取り組む際は短期的な成果だけを求めるのではなく、企業の長期戦略として捉えて実行することが重要です。経営計画の中に位置づけ、継続して進めていくことこそが、真の意味でのデジタルトランスフォーメーションの実現に近づく道です。初めの一歩は勇気が要りますが、ぜひ他社の皆さまにも「まずやめることを決める」ことから、挑戦を始めていただけたらと思います。
やまと印刷株式会社
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